JSA 公益社団法人 日本脳卒中協会 The Japan Stroke Association Boehringer Ingelheim

Q5.患者様のご家族にはどのような負担がありますか

A


熊本市民病院 神経内科部長
橋本洋一郎氏

2000年から2001年に全国で1万7000例の脳梗塞の前向き登録調査がありました。その時、熊本からは1000例が登録したのですが、1年後にアウトカム調査をしたら、心原性脳塞栓症の重度障害の方の自宅に送ったアンケートの多数が宛先不明で返ってきました。やはり重度障害の脳梗塞を起こすと家庭が壊れちゃうんです。非常に厳しい状況があるんだなぁと思いました。

済生会と市民病院でデータを出したんですが、従来の経口抗凝固薬を飲んでいる心房細動の方が脳梗塞を起こして入院してくるとき、コントロール指数INRが1.6を超えると軽くてすむんですよ。従来の経口抗凝固薬を飲んでいても1.6を割っていると重度障害が増えるんですね。ガイドラインの1.6以上は非常に大事だなと思って、自分の患者さんにも全国にも「1.6を割ったら飲んでいないのと同じですよ」といい続けてきました。

実はですね。心房細動による脳梗塞は人ごとではなくて、親父も心房細動で脳梗塞になったんです。親父はヘビースモーカーで、おなかの調子が悪くて救急車で運ばれるような状況で、お財布をもたなくても缶ピースだけは持っていくというほど。COPDになって肺炎を起こして、凄くつらかったみたいでたばこはやめられたんですけど、COPDから肺性心になって心房細動と粗動が起こってきて、従来の経口抗凝固薬が導入されて粗動はアブレーションで治療したけれど、心房細動は続いていて、ずっと従来の経口抗凝固薬コントロールを熊本でNo.1の不整脈の専門家に治療してもらった。

ところがですね、小渕首相が倒れた2000年ですね。私は、NHKの今日の健康に21世紀の第1回目から4回目、増える脳梗塞という特集出演します。それまでは脳卒中がテーマだったものが小渕首相が倒れたことで、脳梗塞だけを題材にしたものになりました。それに出て自分の親父も従来の経口抗凝固薬コントロールしてますと言っていたら、そんなあと「先生のお父さんが重症で倒れて運ばれてきます」という連絡を、たまたま家内と行っていた水俣の湯の子温泉にいるときに受けました。温泉センターで気分が悪いと倒れこみ、痙攣重積になって救急車で市民病院に来ると。私が今日の健康に出ていたので橋本先生のお父さんということが知られていて、日赤病院ではなく市民病院に運んでくれたんです。当時は日赤病院には神経内科の先生が居ませんでした。挿管して尿ブロックしてレスピレーターに繋がれて、どうも脳梗塞ということになって、今は日赤の部長をしているテラサキというのが対応してくれて。私は葬式のことを考えながら当時3時間ほどかかる水俣から車で帰ってきたら、ちょうど血管造影中で、脳底動脈閉塞だと。その数年は従来の経口抗凝固薬コントロールは良かったんですけど、その時は全く効いていなかったんですね。四肢まひ、昏睡、全身けいれん。もう三途の川をほぼ渡り切ったところを無理やり引き戻した。自宅で倒れたらおそらく死んでいたんですね。公衆の面前だったから助かった。で5月3日は連休の最中ですね。CCUに運ばれてきて、血管内治療をして四肢まひ、昏睡だったのが左手が動き出したんですね。親父は左利きで、ああ親父は右まひが残るのかと思ったら、1週間たったら右手も動き始めた。それでも過睡眠状態で嚥下もできなくて、鼻から管を入れてちょうど3週間たった時点で機能病院に転院して、数ヵ月リハビリして途中でちょこっと外泊したり、正月はお家で過ごせたりして、春になったら退院となったところで、肺炎を繰り返して翌年の12月に亡くなっているんですけど。(ですから)心房細動への思い入れが強いんですよ。